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「iPad/iPadOS」と「Surface/Windows10」の将来性を考える


心の中でずっと待ち望んでいた「iPad専用OS」がようやく登場しました。
英語圏のほうでは、「iPad VS Surface」の議論で盛り上がっています。

YouTube動画
“Why Apple’s iPadOS is a legit threat to Surface Pro and Windows”(なぜアップルのiPadOSはSurface ProとWindowsの直接の脅威になるのか)
を見たのですが、
そこのコメント欄で繰り広げられている議論が興味深かったので、訳して記事にすることにしました。

その動画で言及されているのは、
・平均的な消費者は選択が難しくなる
・なぜならiPadOSでマウスがサポートされるため、腕を上げての煩わしいタッチ操作を減らせるから
・プロユーザーではなく一般ユーザーにとって、iPadとSurfaceは大きな葛藤になるだろう

といった話に始まり、あとはテクニカルな内容が続きます。

※当記事は「iPad/iPadOSとSurface/Windows10のどちらがオススメか」という内容ではなく、iPadOSの機能を詳しく解説する内容でもなく、iPad/iPadOSとSurface/Windows10の将来性、発展の可能性を考察した内容です。
つまり「今後どうなっていくだろうか」という話です。現状を叩いたうえで。



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【目次】
コメント欄
アップルについて
マイクロソフトについて
OS X 黄金時代
Windowsについて
タブレットのこれまでとこれから

※当記事はYouTubeコメント、筆者の体験談、歴史、UIデザイン、プログラミング、OSアーキテクチャ、CEOの発言などを取り入れた多面的な内容なので長いです。ひとつの項が、ブログ記事ひとつ分の長さと思ってください。


コメント欄

まずは、僕が選んだコメントを一気に網羅します。
2つだけ、別の動画のものを引用しています。


『私はWindowsOSを快適に使っているユーザーだ。かと言えば、iPhone6(2台目のスマホ)とiPad Air1セルラーモデル(外出先でのメインタブレット)のiOSユーザーでもある。今これをタイプしている古いiPadのOSがアップデートされれば、もうてんこ盛りと言える。Windowsはもっとまともな働きをするセルラー機能付きデバイスを投入すべき。セルラー機能付きラップトップではなく、セルラー機能と、タブレットに親和性のあるWindowsOSを搭載したタブレットだ。現行Windowsの形態はまったくタブレットフレンドリーじゃない。彼らは片付けないといけない仕事が山積みだ』


『ヘビービジネスユーザーだが、iOS12でも私はその時間の80%(サービスの利用、プロジェクトマネージメントやスタッフマネージメント)をiPad Pro12.9で済ませられる。マウス無しだとエクセルは厄介だが、一度マウス環境が実現されれば、仕事の95%はiPadで事足りる。仕事用にSurface Pro 2017も持っているが、エクセルの重い作業にだけ使う』


『私は初代からずっとSurface Proを使ってきているが、今は置き換えとして、iPadOSを搭載したiPad Proに絶対的な興味がある。マイクロソフトは長い間Surface Proラインに革新を起こしてこなかった。USB-Cではなく、時代遅れのmini display portが使われている…。』


『Surfaceでの個人的な問題は、まずタブレットとして、これは酷かった。ノートブックとしては、開くだけで直立できるクラムシェルの代わりにならない、バカげたキックスタンドが実用的じゃないこと。指を縮ませられるキーボードにはイライラさせられる』


『それなりに時間が経てば、iPadOSはWindows10の現実的なライバルになると思う、すべてのモバイルアプリとデスクトップクラスのソフトウェアがiPadOSに取り込まれるようになれば。マイクロソフトが唯一できることは、SurfaceシリーズやWindows10をもっとタッチに最適化することだけ』


『"仕事"のために使いたい人(ビジネスマン、学生)はノートブック型を好むだろうけど、単にコンテンツ消費、ウェブブラウジング、メール、基本的な生産作業が必要な人たちは、たぶんタブレットを求め始めると思う。アップルのアプリのエコシステムは敵なし、そのiPadアプリたちだけが強靭なものにさせている。
私はSurface Goが好きだが、iPadOSがマウスサポート、良質なファイル管理、デスクトップ版SafariとUSBドライブサポートを備えるなら、リリースされたときに移行を真剣に考えるだろう。これらが私がSurfaceにおいて毛嫌いしている2つの要素、「バッテリー持ち」と「貧弱なタブレットの機能性」を改善してくれるであろうことはほとんどわかりきっている。
個人的に唯一考慮に値する点は、iPadOSの改良があったとしても、Windowsのマルチタスクのほうがずっと好みだということ』


『確かにiPadOSは、すでに一部の使い方でWindowsよりもずっとパワフルだ。
最近、私は資料を修正する友人を助けていたが、1つのプレゼンを作り上げるのに10〜20分かかって彼は苛立っていた。私なら、Windowsにはないドラッグ&ドロップ機能を使うだけで、同じことを2分でこなすよ。あとはパワーポイントデータとしてエクスポートすれば、ほんの少しの時間で仕事は完了する。
Windowsの複雑に入り組んだファイルブラウザはどうして、真っ当な理由もなく「タグ」のような基本機能が欠如しているのか、私にはおかしく見える』


『Surface Proはハードウェアの観点なら万能。OSの観点だと複雑。もしデスクトップ用途について比較するなら、Windows10は間違いなく勝つが、タブレットの観点だとiPadOSが明らかにまさっている。アプリが理由というより、UXがすでにかなり良質だから。私は数年前、iPad上のiOSを基本的に「巨大化したiPhone」にすぎないと捉えていたが、それからアップルはiOSを改良し、今ではWindows8.Xから影響を受け改善されたUXを、iPadOSは獲得している。特にApple PencilをサポートしてからよりいっそうiPadを検討するようになった』


『アップルプロダクトが何でお金を生み出しているか、調べに行ってみなよ。iPadからの利益はMacBookよりも多い。彼らはMacBook Proラインを潰そうとする代わりに、インテルのチップよりも強力で効率的な自社チップをMacBook Pro向けに開発している。彼らはMacBook Airと12インチMacBookを潰し、それらをiPadで置き換えることが簡単にできる。というわけで、プロたちはMacBook Proを使い、カジュアルユーザーたちはiPadを使うことになるだろう』


『「プロユーザーではなく、(動画内の発言)」プロフェッショナルたちはiPad Proを使っているし、多くの事に対し、それを利用することで最良の結果を生み出す手段となっている。これはその人がどの種類のプロフェッショナルかによる。(アップル製品の広告を見る)視聴者たちへの見せかけに始まらない。ミュージシャン、ビデオクリエイター、アーティスト、デザイナー、そしてイラストレーターたち誰もが、ハードウェアプロ用品の1つとして、iPad Proを使っている。アップルの最近のiPad宣伝は完全に、iPad Proが使われている。そういった仕事で生計を立てているなら、プロフェッショナルだ(笑) そして彼らの多くがiPad Proを使う。自分で検証してみれば、その事実をすぐに見出すだろう』


『マイクロソフトは消費者向けやスモールビジネスの領域で事を成し遂げることができない。スマホからタブレット、アプリストア、音楽に至るまで、この10年の失敗の数々がそれを証明している。Windowsタブレットの体験は惨事』


『Surfaceは素晴らしいコンピュータだが、申し訳ない、くそったれタブレットだ。私は最新モデルを持っており、iPadも持っている。Surfaceをタブレットモードにした瞬間、すべてが遅く、操作が難しい。Surfaceはタブレットとしてではなく、タッチ式コンピュータとしてつくられている。つまり、比較することができない。iPadは現時点で、コンピュータレベルの能力を持っていない』


『iPadOSの存在は、マイクロソフトがなぜモバイル市場において"全部乗せ"を貫き続けるべきなのか、まさにその理由となっている。もしほとんどの人がiPhoneを持っているなら、彼らは(その望みに意識的に気づいているかどうかに関係なく)その体験を同じように整えたくなるだろう。
マイクロソフトとアップルは消費者市場において、対極の成功理念からスタートしている。マイクロソフトはデスクトップ市場、アップルはモバイル市場だ。アップルは彼らが存在するしょっぱなからデスクトップ市場を打ち砕こうとしてきており、ここがおそらく彼らにとって、進んでいくべき大道である。
ここはマイクロソフトが2つのミスを犯したままの道だ。
私見を言えば、1)消費者向けの代わりに法人向けに主にフォーカスしている。2)Windows Phoneを完全に諦めたという事実は、彼らの会社の存続における重大な過ちである』


『それはマイクロソフトが直視すべき事柄だが、彼らは、今までやってこなかった「ユーザー体験やユーザーの使い方を考慮すること」すべてにおいて、かなりの"盲目"だ。Windows8とWindowsPhoneを立ち上げたとき、彼らはコンピュータ向けでデスクトップフレンドリーな、触り慣れた信頼あるUIをすでに持っていた。彼らは適切な指導も、学習曲線のプロセスも無しに、全ユーザーに対してその移行を強要するという複合的な過ちを犯した。そして大いに失敗した。
彼らがすべきだったことは、マイクロソフトのアーリーアダプターにアピールすべく、新しいSurface Proデバイスに乗ったWindows8を、まず彼らに勧めることだった。
(私はその中の一人で、Macを何年か使ったあとSurface Pro3のためにWindowsに戻った。なぜなら輝かしいほどのフォームファクターにスタイラス技術・使い心地によってもたらされたもの全体が、新鮮な使い方であり革命的だったからだ。当時は自分のSurfaceが大好きだった!)

彼らはいくつかの新しいデバイスたち(まずはSurface Pro, 次にSurface Book, それからSurface Studio)で動く成熟した新しいOSを作るべきである。それから数年後、事が安定してきたとき、UWP(Universal Windows Platform)システムの展望として、この新しいOSを、デスクトップOSに統合させることができる。
ところがその代わりに、彼らはまったくもって着実性もなく、30年の歴史をもつ古いUX・UIパラダイムに"莫大な"変更を課し、それで失敗し、私たちにとって古き良きデスクトップである新しいバージョン(Win10)に戻った。

進展のない放置ぎみなタッチインターフェイスのSurfaceは、ペンとタッチ操作に最適化されておらず、その間にアップルはそれをうまく実現してきている。
今ではiPadはマウスとファイル管理がサポートされた。私たちが何年もの間夢見ていたSurface Proは、iPad Proである。アップルのジェスチャー操作やUIパラダイムは十分整っている、アプリのエコシステムも十分整っている、そしてそのユーザーコミュニティも、iPadOSへ乗り換えるのに十分整っている。
すまないがマイクロソフトよ、あなたたちは完全に事を台無しにしている』


『iPadOSはデスクトップコンピューティングを潰すことにはまったくならなかったが、クラウドドライブを潰すことにはなった。ついに厄介なアプリを消すことができ、ただフラッシュドライブにデータを保存するだけでいい。そしてSafariが"本当の"ブラウザになったことで、ついにYouTubeアプリや多くのアプリも消すことができた』


『結局のところ、まだiOSという感じ。マルチタスキングがもっとできるように改良されたモバイルオペレーティングシステムにすぎないことを思い出させるいくつもの欠損があることを自分は確信している。例えばiPad向けフォトショップ』


『MacアプリがiPadで利用できるようになり、iPad Proが金曜の夜に裏通りでかがみ込んでいる売春婦のような状態をやめるまで、iPadOSはSurface Proの脅威にはならない』


『アップルはiPadを、本当のラップトップPC置き換えにさせることから故意に距離を置いているようだ。MacBookとカニばることがその理由。アップルがノートブックを続けるのをやめる計画を立てるまで、彼らはWindowsと渡り合えるような劇的な手段を使ってiPadを変えるようなことはしないだろう』


アップルについて

売春婦のくだりは、ジョーク的な例えであることに気づくまで、どう訳せばいいか困惑しました。
「金曜の夜に」というところが妙にリアルです。

それはさておき、英語圏だとYouTubeのコメント欄という何気ないところでも、このように業界全体を見渡したレベルの高い指摘は当たり前のように出てくるので、読んでいて面白いです。
こういった鋭い指摘は日本だとめったに出てきませんし、日本人的な感覚からすると、少々過激に感じられるかもしれません。


さて、このiPad VS Surface、iPadOS VS Windows10について僕の結論を述べれば、
現時点で片方がもう片方の完全な置き換えにはならないが、将来性や方向性としてはiPadOSに部がある、となります。

僕は2016年の2月に「MicrosoftのApple逆転がハッキリした2015年」という記事を書きました。

その記事では主にタブレットコンピューティングの観点で、2015年時点で登場していたSurface Pro3, Windows10, Surface Book、そしてアップルのiPad Pro 12.9, iOS9を俯瞰してみて、
マイクロソフト=魅力的な快進撃、アップル=ダメだこりゃ
という結論付けをしました。

この2019年という時期から振り返ってみても、当時の見方はそれなりに的を得ていたと思えますし、コメントの見解とも一致します。


今でこそ一目瞭然ですが、当時のiOS9はSplit Viewやキーボードショートカットリストなどをサポートしていたとはいえ、”iPhoneOS Plus”とでも呼ぶべき、ベイビーOSにすぎませんでした。

OSの準備を入念に整えないまま、約13インチという大画面を用意してしまったわけですから、あのOSXやiPhoneエコシステムを生み出した企業とは思えない素人臭さに、心から絶句したものです。

例えば当時のアプリスイッチャーは、iPhoneのものをそのまま拡大させただけで、スクロールしなければ2つ3つからしかアプリを選択できない、画面いっぱいにデカデカとウインドウが表示される、慣性で横へ滑りすぎて選択しづらい、不便極まりないスイッチャーでした。


appSwitcher ios9

WWDC2015より


実はその一年後、2017年の4月から7月にかけて、つまり今からちょうど2年前、僕は「なぜiPadはここまで落ちぶれたのか」というタイトルの著書を執筆していました。
書き始めた当時はまだiOS10が現役で、iPad向けにはiOS9からほとんど改良がなされず、iPadのあまりの落ちぶれっぷりに絶望し、アップルがどの方向へ突き進むべきなのか、コンピュータ科学とUIデザインの観点から長文を書かずにはいられなかったのです。

すぐに1冊分まとめたのですが、執筆中にiOS11やSurface Laptopが発表されるなど業界の変化が著しく、どこで区切りをつければいいかわからなったので現在まで放置したままです(当記事が部分的な役割を担っています)。

その本では、アップルはiOS7から本格的に、iPadを"本物の"生産ツールに昇格させるべく舵を切るべきだったと指摘しています(後出しジャンケンですが)。
実際は、iOS9でようやく重い腰をあげたようにラップトップスタイルに取りかかり始めたわけですから、その時点で数年遅れています。

MacBook/macOSを凌駕する、まったく新しいUI体系を有する生産系モバイルコンピュータが僕の頭の中にあるイメージです。

そのiOS7からの「理想の成長曲線」をベースに考えれば、iOS10の頃のフォームファクターとしてのiPadは、相対的にもっとも落ちぶれていたと思います。
最新のiPadOSでさえ、そのイメージと比べるとまだまだ未熟に映ります。
実際にベータ版をサブ機のiPad Air2にインストールして触っていますが、ステキな改良もあり、今さら感もあるという感じでしょうか。


個人的に気に入っているのが、マルチウインドウの柔軟化、ウェブページ全体のスクリーンショット(PDF保存)、Safariのデスクトップクラス昇格、そしてカーソル(青い縦棒)を長押しせずに移動させられることです。

同一アプリのマルチウインドウ化によって、メール作成の使い勝手がかなり向上しています。
ただ、強化されたマルチウインドウGUIは確かに便利ではありますが、iPadにしては少々複雑で回りくどく、取っつきにくいかなという感じですね。macOSのほうがまだシンプルでわかりやすいです。

Safariにおけるコンテンツ表示は、以前よりも全体的に細かく表示されるようになり(というか今までがデカデカと表示されていただけであり)、例えば、Googleニュースは2カラムから3カラム、YouTubeもムダなスペースがなくなってコンテンツを俯瞰しやすくなっています。
これなら確かに、YouTubeアプリはなくてもいいです。YouTubeアプリだと以前開いていた動画ページがリセットされホームに戻ってしまいますし。


WordPressの記事編集のような「テキスト入力エリア」も、今までならなぜか慣性スクロールが反映されず、タッチによるスクロール操作はきわめて煩わしかったのですが、iPadOSではMacと同じようになめらかに滑ってくれます。

上記2つは特に、iPadが登場したiOS4以来、13代目になって今さらという印象。

今さらと言えばファイルブラウザの外部ドライブ対応もですが、こちらのYouTube動画によれば、Lightningコネクタデバイスだと認識するストレージは、USBメモリとSSDのみ、HDDは認識しないそうです(beta版の検証)。USB-CならHDDも認識します。

注意点としては、テキスト入力まわりもいろいろ改善されてはいるものの、あくまでiPad単体でのタッチ操作においてであって、外付けキーボード併用スタイルの改善は特にないことです(マウスサポートを除いて)。


嬉しい改良は多いのですが、コメントにもあるように、普段通り使っているとやはり「まあ、12がブラッシュアップされたiOSだな」という感じです。

iPadOSを触っていても、MacBook代替とは言わないまでも、やはりアップルはiPadを「MacBook並みの本格派キーボードコンピュータ」にする気はない態度が、ひしひしと伝わってきます。あくまで「macOS未満の中級OS」に留めているという感じです。
アップル純正アプリのアイコンデザインも、macOSのように繊細で重厚感のあるほうに変えてほしいですね。iOSのデザイン言語は手抜きというかオモチャっぽいので。

iPadOSを楽しみに待つiPadユーザーの夢を壊すようですが、「iOS10 -> iOS11」のアップデートよりも改良が多いのは間違いありません。これまででもっとも有意義なアップデートになるはずです。


ところで、第2世代であるSmart Keyboard Folio、あれは退化だと僕は思っています。

たしかに見た目はスッキリして背面も保護できるようになりました。
しかし第1世代と比べて重量が増し、角度が急になるだけの2段階調節が有用とは思えませんし、下の写真のような柔軟な変形が、すべてできなくなってしまったからです。


Ipad angle

1世代目でも不満点はありましたが、まさか改悪してくると思いませんでした(汗)
彼らはiPadをどうしたいのか。

この3スタイルが取り上げられる生活なんて。。。
せめて2モデル展開すべきだったと思いますね。


マイクロソフトについて

まずハードウェア、つまりSurfaceプロダクトについてですが、ハード技術としてはアップル製品にかなわないものの、デザイン思想やその方向性の観点では、よくできていると思います。
少なくとも、Windows系ハードの中でもっとも"まとも"と言えるのではないでしょうか。これは価格とスペックを天秤にかけた話ではなく、あくまでデザイン思想やこだわりの点においてです。

自分はSurfaceシリーズを持っていませんが、店頭でときどきSurface Go/Proをかまっており、いつかその後継機を買いたいと思っております。
そのGoを触っていて気づいたのは、iPad Proはハードとしての完成度が思っていたより高いということ。


所有しているiPad Pro(10.5インチ)とざっくり比べると、まずiPadのほうが、スクリーンのクオリティがはるかに高いです。
ピクセルはずっと繊細で、色の再現度やバックライト透過の安定感、120Hzのなめらかなモーション、反射率を下げた目に優しいコーティングなどを備えたスクリーンが、前面いっぱいに広がっています。

じつは10.5インチを横向きにしたときの「縦幅」は、MacBook12インチスクリーンの「縦幅」とまったく同じです。
つまり「10.5」と「12」インチの物理的なサイズ感は、数字で見るほど、もしくは本体サイズの印象ほど大差ありません。

さらに4つのスピーカーは驚くべきクオリティで、音質が良いだけでなく、シャカシャカ音ではない明瞭サウンドのまま、とんでもない爆音を出せます。
じつは12インチMacBook(2017)のスピーカーよりも音質が高く、音量の大きいスピーカーを持っています。

そんな高品質の大画面とスピーカーが、ギリギリまで薄く、軽い筐体におさまっている姿に、ハード技術の高さを感じました。
iPadだけで判断するわけではありませんが、たぶんアップルのハード技術は業界の中でもっとも高いのではないかと思います。


それでも個人的に、Surfaceチームは十分よくやっていると思います。ハード開発の歴史がずっと浅いので、ハード技術の未熟さは仕方ない部分もあるでしょう。
Signature Type Coverのようにファッション性に積極的なのも、昔ならありえないことでした。
ラインアップとしてもSuface GoからSurface Studioまで、一通り出揃った感があり、チームのデザイン思想はおおかた体現されたような印象があります。

問題はWindowsです。
Windowsが、Surfaceデバイスの魅力を引き出せていません。先のコメントたちにおいてもタブレットモードの評判は最悪ですが、問題なのはOS、つまり、ソフトウェアデザインのほうです。


Windows10でマイクロソフトは、キーボードを取り外すことによってモードを切り替え、UIをタブレットスタイルに最適化するアプローチを取りました。これはWindows8の「スタート画面押し付け」と比べれば、はるかに好感の持てる地に足のついた対処と言えます。

ただ、Surface Goを触っていて気になったのが、タブレットモードにおいても相変わらずUIパーツ(ボタン類)がことごとく"小さい"ということです。
指のサイズに対して小さめのボタンが、画面の隅っこに細々とギュウギュウ並んでいる。。。Surface Proの12インチでもやたら小さい…。
アプリ内はデスクトップ版そのもので、タッチ操作を意識しているように感じられません。

タッチを意識してデザインされているのは、タイルだけなんじゃないでしょうか…。
こんな"手抜きタブレットモード"にどれほどの意義があるというのか。

UIにこだわるiPadアプリをデザインしている身としては、これはナンセンスです。
macOSのスペースに余裕のある「大型アイコン主体、ドラッグ&ドロップ主体GUI」のほうが、タッチを念頭に置かれているんじゃないかと思うほどです。

macOS-GUI


しかもタイプカバーを外したのに、スクリーンキーボードが全然出てこないので困惑しました。
どこかにある設定を変えない限り、タブレット本体だけでは文字をタイプできないのです。OSのバグでない限り、iPadではそのような問題に直面しません。

デバイスを回転させてから画面が反応するまでのラグもやけに長いです。
「あれ、反応しない」と思ってしまうレベルなんですが、これはWin10の仕様なんでしょうか。

ジェスチャー操作のレスポンス品質も、なかなかAppleレベルに到達しません。スクロールやピンチ、スワイプ(ウェブ、システムUI全体を通して)の完成度はまずまず、GUIの挙動はイビツで、少々安っぽさを感じます。

一方、スライラスペンにおいてアップルは後発ですが、しょっぱなからクオリティの高い"鉛筆"を生み出しただけでなく、リフレッシュ率120Hzのスクリーンによって「ペン&指」の追従性を同時に向上させ、さらにiPadOSではアルゴリズムの改善によって、ペンの遅延を20msから9msに減らし、すべてのペンシル対応iPadの筆感を向上させてきました。

こういったユーザーフレンドリーならぬ、フィンガーフレンドリーのための努力を、マイクロソフトはずっと放棄してきました。
これは少し触るだけですぐ分かるレベルの、OS全体を支配している問題です。


マイクロソフトはこういったユーザーインターフェイス、ユーザー体験といった「人間のフィーリング」に根ざす領域を、いつまで経っても根底から改革しようとしません。
特にタブレットにおいて「フィンガーフレンドリー」は誤魔化しのきかない、きわめて重要な要素です。

いや「いつまで経っても」は語弊で、ここ10年はその辺りの取り組みがもっとも真摯な時期だったと言えます。
Windows Phoneに始まったモダンUI(メトロUI)がそれで、彼らは独自のデザイン言語を発明し、iOSほどではないにせよ従来のWindowsとは対極的なシンプルさを具現化させていました。

人生の終わり頃、あのスティーブ・ジョブズも独創性があると褒めていました。『少なくとも彼らは、グーグルみたいにわれわれをコピーしなかった』と。

2017年にはFluent Design Systemという、メトロUIを拡張した統合的なデザイン言語も発表し、歴史的に軽視してきた"デザイン"に積極的なのは明らかです。

Surface Studio向けに開発された「Surface Dial」も画期的で、Surfaceシリーズならではの"変形"もその1つでしょう。スタイラスもペン先を違う硬さに換えることができますし、ノックボタン側は消しゴムとして機能し、それとOneNoteの組み合わせは素晴らしいと思います。

クリエイターたちを尊重するようになった姿勢にも好感がもてます。

それでも本家Windowsには、まだまだ「小難しさ、取っつきにくさ」が文化として根付いていると言えます。
iPadOSどころか、macOSと比べても目立つ「小難しさ、取っつきにくさ」をWindowsは長らく維持してきましたが、
彼らがタブレットで成功をおさめるには、この(無くてもいい)取っつきにくさを、もっと削り取っていく必要があるように思います。
それを削り取っても生産性は落ちない(むしろ上がる)ことは、macOSが証明しています。
個人的には、WinよりもLinux(Ubuntu)のほうが取っつきやすく使いやすいと感じたほどです。設定項目などもWinより見やすかった。


マイクロソフトはコンピュータの歴史が始まって以来、アップルとともに業界をリードしてきた「老舗」のソフトウェア企業ですが、じつはソフトウェアデザインのセンスは、そう高くありません。

ここで言う「ソフトウェアデザイン」とは、OSの基盤仕様、システムの堅牢さ、UIデザイン、設定項目、アプリエコシステム、開発のしやすさ、ハードとの調和、そしてそれらを統合するバランス感覚、、、あらゆる側面のデザインのことです。
いくつか例をあげましょう。


例えばファイルシステム。
Windowsで使われ続けてきたNTFS(1993年導入)は、90年代はまだ良かったのですが、アップルのHFS+(1998年導入)や、LinuxのEXT4(2006年導入)と比べると時代遅れなものとなっています。
特にアップルは改良に積極的、かつファイルシステムはもっとも良質で、HFS+の根本的な問題を解決した「APFS」を2017年に新たに導入し、現在はwatchOSからmacOSまで、すべてのアップル製OSでそれが使われています。

さてマイクロソフトはというと、何もしてません!
少なくともコンシューマー向けには、今後もNTFSが使われていくようです。


例えば、今年で完全に終焉を迎えるWindows Phone。

僕は実際にWindows Phone8のLumiaを所有し、使っていた経験がありますが、デザイン言語としてはよく出来ていて、Androidよりもシンプル、iOSよりも自由という、ちょうどいいバランスを実現していました。(ハイエンドのLumiaデバイスも魅力的でした。)

しかし歴史に目を向けてみると、Windows Phone7とWindows Phone8はOSの基盤仕様が異なるため、7デバイスを8へアップデートすることができませんし、アプリも7と8両方で動作させることができませんでした。
バージョン的には1つ違い、時間的には2年差のリリースであるにも関わらず、ハード的にもアプリ的にも互換性がなかったのです。

意味不明ですよね。
iPhoneが登場した3、4年後に、こうもゴニョゴニョまごついていたのです。
内部の人によれば、iOSとAndroidが台頭する状況下、ユーザーと開発者を少しでも早くWindows Phoneプラットフォームに誘うために、8まで(2012年まで)待つわけにはいかなかったそうです。

「人々のポケットに常駐するOS」を自分たちのものにできなかったのは、これからの数十年を考えても、企業として途方もない損失になり続けることでしょう。

2012年に登場したWindowsRTも同様。
インテル製ではないCPUのために用意された独自OSで、ストアアプリを充実させてないのに従来のWindowsアプリが一切使えないなど制限が多く、外界から隔離され今にも沈みそうな沖ノ鳥島のごとく、一瞬で消えました!


マイクロソフトはOSやシステム、サービス、設定などをいちいち分断したがります。Xboxも長い間、Windowsと無関係に存在してきたのではないでしょうか。

Windows10においてさえ、簡易版OSである「10 S」が一時期存在していました。
(現在はフルバージョンに戻すことのできるモード扱いですが、一度それをやるとSモードに戻すことはできない一方通行仕様)

現行のデスクトップ・タブレットモードの二元性も、言ってしまえばある種の分断です。

言語においても「言語パック」なる仕組みで、ビルドナンバーを考慮しつつ、いちいちインストールしなければなりません。
日本語環境だけでいいと思われるかもしれませんが、日本人にとっても英語環境のほうが設定項目が見やすくなるメリットがあるようです。

macOSのエディションは1つのみ、どの言語にも設定で自由に切り替えられ、サードパーティアプリなどを使って不要な言語をすべて削除し、ストレージを増やすこともできます(基本的にアップル製OSは多言語処理に強い)。

ジョブズは2007年のWWDCでMac OS X Leopardを発表した際、Widnowsのエディションによる「分断」を皮肉るユーモア溢れるプレゼンをし、拍手喝采を浴びています。
(下の動画の最後の2分、50分30秒辺りから)


マイクロソフトという会社は、長期的なヴィジョンをもって方向性を定め、独自の信念を掲げて細部まで着実に、忍耐強く製品やエコシステムを改良、成熟させていくという、人格者的アプローチができない企業です。

その結果、ユーザーがアップデートの到来を怖れる風潮が出来あがります。
少なくともスティーブ・バルマーCEOの時代まではそうでした。Windows8の壮大なズッコケは、彼による「最後の一発」だったようです。

(アイキャッチ画像の、ジョブズよりハゲているおじさんがバルマーCEOで、その画像は上のWWDC2007における一場面です。)

ちなみに彼が登壇したあるプレゼンテーション(2008年頃)の卓上、"Microsoftロゴ"ボードの背後に置かれていたのは、あの"りんごロゴ"が光るコンピュータでした。(起動OSがWindowsかどうかは不明)

steve ballmer

また、ジョブズがiPhoneを発表した当時、インタビューでバルマー氏は「世界一価格が高い電話」「キーボードがなく優れたe-mailマシンにはならない」と、iPhoneのことを嘲笑しています。そして「私は自分たちの戦略が好きだ」と言っています。
動画:Ballmer Laughs at iPhone


そして2012年の初代Surface発表キーノートでは、デモでInternet Explorerを開いた瞬間、Surfaceがフリーズするという失態をしでかしました。


一方のMac OS Xは、アプリに問題が生じても、システム全体に影響を及ぼすような脆弱な設計にはなっていません。


OS X 黄金時代

WindowsやiPadOSのことをより客観的に見るために、MacのOSについて掘り下げないわけにはいきません。

あまり知られていませんが、ジョブズは2007年時点ですでに、マイクロソフトをおちょくる余裕をもつほどにOSXの完成度を、あらゆる側面で、Windows(Vista,7,8)を凌駕する水準にまで仕上げていました。

例えば、Windows10 (2015年)で初搭載された「仮想デスクトップUI」は、Leopard (2007)ですでに存在していました。

Windowsをデュアルブートできる「BootCamp」、OS全体を全自動で差分バックアップ、保存ヒストリーから復元できる「TimeMachine」もこのとき搭載。
(Windowsはこれと同レベルのバックアップ機能を未だに実現していません。)

ジョブズと親交のあった大御所ITジャーナリスト、ウォルト・モスバーグも「Leopard: Faster, Easier Than Vista」という記事を書いています。
そしてOSXは、このバージョンで正式に"UNIX"として認定されます。


ここで、コンピュータの考古学ともいえる知識を説明しておきましょう。

UNIX(ユニックス)は60年代にベル研究所が開発したOSで、プログラミング界で現代まで伝統的に語り継がれている優れた思想哲学を根底にもち、メモリ・プロテクションは完璧で、安定性と拡張性が高く、豊富なコマンドラインを持ち、大量の情報処理に優れ、コンピュータの原理的な動きに近い操作が可能で中身が見えやすく、C言語で書かれているので機種を選ばず、当時も今も、マルチ・ユーザー・コンピュータOSを作成する上で、ベストなOSです。
進化の早く興亡の激しい業界でこれほど長い生命力を発揮し続けるのは、驚異的な実績です。

ジョブズ復帰後、2つのOS「OpenStep」と「MacOS 9」を統合して2001年に公開されたのが、「Mac OS X」です。
OpenStepがUNIXで、MacOS 9はWindows以上に安定性が低かったのです。前者の「安定性」と、後者の「親しみやすいUI」のいいとこ取りをしたのがOSXです。

ジョブズはこの時のことを『人間の大脳の移植に匹敵する難事業だった』と語っています。

NeXT社(ジョブズの会社)のメインOSである「NeXTSTEP(ネクストステップ)」が先進的な設計であったため、その表層部分を取り出して他のOSで動作できるようにしたのがOpenStep。
NeXTSTEPはユーザーインターフェイスも洗練されていて、同時期のWindows(90年代前半)どころかWindows2000よりも美しいGUIを備え、そこで生まれた数々のGUIコンセプトは後世OSに影響を与えました。

macOSやiOSには、OpenStep直系の技術(Cocoa)が使われています。iOSアプリを開発した経験のある人なら誰もが目にする"NSString"や"NSData"などの接頭語「NS」は、NeXTSTEPの略です。


あくまで"UNIX的"であるLinuxと違い"本物のUNIX"なので、本質的な安定性・セキュリティ性を、設計思想レベルで内在しています。
LinuxベースのAndroidを見ればわかりますが、Linux系OSはシェアが増えると、Windowsと同じようにウイルスが深刻な問題となってきます。しかしmacOSはそうはなりません。
Macのシェアは小さいと思われるかもしれませんが、毎年何百万台も出荷されていますし、メーカー別なら世界トップ5、Macビジネスだけでもフォーチュン500企業にランクインします。つまり、販売数的にはウイルスの標的にされてもおかしくないということです。

一方、Windowsがウイルスに弱いのは、シェアどうこう以前にOSの基盤設計に脆弱な欠損を抱えているからです。
その欠損は、Windows95のコア機能をNT系(2000以降のWin)に移植・統合する際、9x系との互換性のため、NT系がもともと有していた頑強なセキュリティの存在を無視する実装を行ったために発生しました。
その結果、あらゆるオブジェクトにアクセス可能となってしまい、死守しなければならないはずの「システムファイル」の書き換えを阻むものは、何もありません。

さらにこれとは別に、ある深刻なセキュリティホールも抱えています。
WindowsOSのコア部分は仕様として、オブジェクトを作成する際、セキュリティ記述子に「NULL」を指定できてしまうのです。
(わからない人のために説明しておくと、NULLとは"無"を意味します。)
セキュリティ記述子のないオブジェクトには誰でもアクセスできてしまうわけで、これがWindowsNT系OS最大のセキュリティホールとなります。

つまり、「誰でも」「あらゆるオブジェクトに」アクセスできる。
Windowsがコアに有する哲学は、"誰がセキュリティを気にするというのか"です。


さてOSXに話を戻すと、次バージョンの「Snow Leopard (2009)」では機能追加を控え、安定性強化、高速化、コンパクト化をはかりました。
これにアップデートするだけでストレージが数GB空くほどで、Vistaはもとより7よりもスピーディー、低スペックMacBookでもスリープ復帰は一瞬でした。
そして最後のパッケージ販売バージョンとなります。

(なお、LeopardやSnow Leopardはコードネームかつ愛称で、当時のOSXはそれぞれのバージョンにネコ科の動物の名が付けられていました。現在はカリフォルニアの地名。)

その次バージョン、「Lion (2011)」ではiOS由来の機能を取り入れ(”Back to the Mac”と呼ばれた)、
見た目(GUI)、操作感(マルチタッチジェスチャー)、自動化(ファイルの自動保存とversion履歴からの復元、起動後に前回のウインドウ状態の復元、アプリストア統合)、無線化(AirDrop、OSのストア経由インストール、iCloud)を全面的に洗練させることによって、MacBook(モバイルファクター)での利便性を大幅に高めるという、「モバイル」「個人」「移動」の時代に即す、きわめて合理的かつ調和のとれた目覚ましい進化を遂げていました。

現行macOSまで受け継がれているシステムGUI(Mission Control/Launchpad/フルスクリーンアプリ)を確立させたのは、このバージョンです。
言い換えれば、トラックパッド使用を前提としたGUIに一新されたということです。

じつはmacOSは、デスクトップよりもラップトップスタイルのほうが、そのUI体系の本領が発揮されやすいです。
マウスを使わないほうが作業効率が高まるUI体系です。


OSX Lion MacBook Air

Special Event 2010より


あるPCユーザーさんのブログに「スライドパッドでパソコン作業が出来る人は、尊敬に値する!私ならあまりの作業効率の悪さにイライラしてしまって使えません。」(2014年10月)という記事があります。

曰く、『世の中にはスライドパッドをストレス無く使いこなす人もいるんですよね。特にマックブックエアーを利用している人達。彼らはスタバでスライドパッドを使ってエクセルデータを作ったり、ブログ記事を普通に書いています。というか、マックブックエアー利用者がマウスを利用していることを見かけることのほうが稀…。もうスライドパッドで作業をするのが当然かのようです』
とのことですが、
MacBook+macOSとWindowsPCとでは、トラックパッドの完成度は雲泥の差です(特に国産ノートのパッド品質は最悪です。SurfaceやHPと比べてみてください)。

また、Macのトラックパッドには「上品な質感の磨りガラス」がずっと使われ続けており、他メーカーの「安っぽいプラスチック」と違ってサラサラな触り心地が実現されています。
ジョナサン・アイブという匠のセンスです。

2015年から導入された「タップティックエンジン」技術によってパッド面積は広くなり、どこでも均等の圧力でクリックできるようになりました。
(ただしMacBookであっても、中身がWindowsとなるとパッドの使い心地は低下します。)

Macでは素材から最先端ハード技術、GUIデザイン、慣性スクロール、システム基盤に至るすべての次元が調和することによって、"最高位のフィンガーフレンドリー"が実現されています。
これはPCメーカーがどんなに頑張っても、アプリ開発者がどんなアプリを作ろうと、ユーザーがPCをどうカスタマイズしようと、Mac以外で実現することは不可能です。マイクロソフトがOS開発を頑張るしかありません。

僕は学生時代にOSX Lionの操作動画を2つ作っているので、参考になるかもしれません。
(※BTT:ジェスチャーカスタマイズアプリBetter Touch Tool。
使用機:低スペック無印MacBook 2008)


ところでOSの64ビット化について、WindowsはOSXよりも先駆的だったと言われることがありますが、これは誤解です。

(※32ビットから64ビットへの移行メリットは、簡単に言えば、ソフトウェアの動作が全面的に機敏になることですが、この移行はOS基盤、CPUアーキテクチャ、アプリ開発者を巻き込むもので、非常に厄介な仕事です。)

確かにWindowsは、XP(2005年)で64ビット版を公開しましたが、消費者向けに大規模に配布し始めたのは7(2009年)からです。
一方、OSXはLeopard(2007)から64ビットに対応し、Lion(2011)でOSもアプリも64ビットのみサポートとなり、32ビットサポートは完全にストップ。
大がかりな引っ越しをあっという間に済ませました。いまやユーザーも開発者も64ビット環境の恩恵しか受けません。
ところがWindowsは未だに、大した理由もなく32ビット”版”を引きずっています。


そんなOSXはたった一つで、ライトユーザーからプロフェッショナル、教育機関からエンジニアリングまで、あらゆるユーザーのニーズに応えられるように設計された、非常にバランスのいいOSです。
なんならWindowsやLinuxをデュアルブートできる。

まさに、Lion(百獣の王)の名を冠するに値する「高級ソフトウェア」だったと思います。このときがMacの絶頂期であり、黄金時代でした。
PC市場の成長率が毎年のようにマイナスを更新する傍ら、この10年、Mac市場だけがプラスとなり続けてきたのも、当然といえば当然です。

一般的にジョブズのOSデザインのセンスは見落とされがちです。

(※Macをべた褒めしているように見えるかもしれませんが、現行macOSはこの頃から目覚ましい進歩を遂げてはいません。近年の高価格化や選びにくくなったラインナップ、バタフライキーボードの問題などもまた別の話です。モバイル全盛のこの時代に、なぜ小型MacBook(12/11インチ)を排除するのか理解に苦しみます。)


Windowsについて

マイクロソフトに話を戻すと、2013年、サティア・ナデラCEOが就任することで諸悪の根源は一掃され、あらゆるハードを横断する統一的な「Windows10」が登場し、改革らしい改革が始まります。
バルマー氏が"癌"と称していたLinuxにも寛容的になりました。

しかしそれでも、2014年に登場したリストバンド型ウェアラブル「Microsoft Band」は、2代目で消えました。笑
この会社は本当に、コンシューマー向けやスモールビジネスに弱いのです。


先日もある大型家電量販店でデモ機のSurface Goを触っていたのですが、
なぜかタッチスクリーンがまったく反応せず、タイプカバーからしか操作できませんでした。
そこで店員さんに伝えると、別の店員さんが呼ばれ、数分デモ機をいじったあと、解決しなかったのかどこかに電話していました。

自分の経験上、Windowsというのは、とにかくトラブルが多いです。
その原因が、製品側かユーザー側かに関係なく。

過去の職場でも、社長が私用していたSurface Pro3(Win8)が指に反応しなくなり、ペンじゃないと操作できない、と相談されたことがあります。
設定を走り回ってみると、アクセシビリティ的な設定がONになっていました。

その職場のWindowsPCは一台、愚行にもウイルス対策がなされておらず、トロイの木馬にやられてガラクタと化したことがあります。
(一方の自分はMacを使い始めてからの10年間、ウイルス対策ソフトを一度も入れずに問題なく使えています。)

他の社員さんのWin8マシンのメール設定を整えてあげたこともあります。
Windowsをしばらく使ってきていないのに、僕のほうがWindowsのトラブルを解決してあげることが幾度とありました。
これは自慢ではなく、それだけ一般ユーザーにはWindowsは難易度が高いということです。


少しマニアックな話をすれば、例えば英語配列キーボードを使う際。
Windows10だと設定の
「時刻と言語」
->「地域と言語」
->「言語」項目の「日本語」をクリック
(ここがクリックできるように見えない)するとボタンが3つ表示される
->「オプション」をクリック
->「ハードウェアキーボードレイアウト」項目の「レイアウトを変更する」をクリック
->「ハードウェアキーボードレイアウトの変更」ポップアップで「英語キーボード」を選択
->「サインアウト」をクリック

(参考:Windows10日本語版で英語配列キーボードを使用する

階層が深すぎる..。

一方のmacOSは配列を自動で識別するので、そもそもそのような設定がありません。
キーボードまわりは「キーボード」->「入力ソース」にほとんどまとめられています。
macOSにも「言語と地域」設定の下部に「キーボード設定」ボタンがありますが、それをクリックすると、先の「入力ソース」にジャンプするだけです。


ユーザーの間でわりと評価が良く、いまも使用者の多い「Windows7」も職場で使っていましたが、アプリのショートカットをあちこちに設定できてしまう仕様もどうかと思いました。
デスクトップ、タスクバー、スタートメニューの3か所です。

いずれもアクセス性は大差ないのに、同一アプリを同時に設置できてしまうところにデザイン的問題があると思います。
人間は選択肢が増えると、思考エネルギーを消耗します。

社長にオフィスのコンピュータ(VAIO4台、iMac2台)の管理者に指名されたので、特にWindowsは操作環境を統一することにしました。長期に渡って無数の従業員が触るからです。
ところがショートカットの決定でずいぶん迷ったあげく、いまいち結論を出せないまま退社。

macOSなら、ショートカットが「Dock」、アプリ一覧が「Launchpad」、以上です。


父親のWin7マシンでWiFiルーターを接続させてあげたときもスムーズではありませんでした。
検知したWiFiリスト(タスクバー)から選ぶだけかと思いきや、「ホームネットワーク」「社内ネットワーク」「パブリックネットワーク」の選択を要求されて戸惑いました。説明文も長々と画面を埋め尽くしています。

macOSでは伝統的に、「ネットワーク」アイコンをクリック後、(iOSと同じように)WiFiリストから選び、パスワードを入力するだけです。


Windows7-macOS-WiFi設定


マイクロソフトはなぜわざわざ事を複雑にするのか。
コメントにもあったように、彼らはこの辺りが本当に"盲目"なのです。

彼らはソフトウェアにおける"誘導デザイン"にめっぽう疎く、どうやらそれが企業文化として根付いているようです。
ビル・ゲイツとスティーブ・バルマーというビジネス畑の2名が、35年以上もの間、この会社のトップとして君臨し続けた結果かもしれません。

誘導デザインに弱いということは、UIデザインに弱いということであり、これはタブレットの成熟にとって致命的となります。
なぜならボタンを並べてあとはユーザーにクリックさせればいい「マウスポインタUI」と違い、「タッチ最適化UI」はもっと高度な誘導デザインが根底から要求されてくるからです。

先ほどFluent Design Systemについて触れましたが、これを導入してもなお、誘導デザインに一貫性はないようです。
YouTube「Why Microsoft Can’t Design a Consistent Windows」(なぜMSは一貫的なWindowsをデザインできないのか)に分かりやすく解説されています。


Windowsは間違いなく、人間を消耗させます。
ところが一般的なライトユーザーは、まず使いこなせない自分を卑下します。

大学の研究室でお世話になったOGの方は、小さい頃から家にはMacしかなく、Windowsを使わずに育った珍しい経歴の持ち主でした。
そんな彼女曰く、初めてWindowsを使ったときはあまりの使いづらさにびっくりしたそうです。
2人のパソコン初心者がWinとMacをそれぞれ使い始めれば、たぶんMacユーザーが早く使いこなし始めるのではないでしょうか。


WindowsやmacOSのようなデスクトップ型コンピュータOSは、スマホや周辺機器、ロボット調節、アプリ開発、専門的シミュレーションなどにとっての"母艦"となります。
その中核的存在が、安全で安定していてスピーディーでわかりやすく使い心地がいいというのは、人間が社会活動に専念していくにあたって手放し難い、いくら強調してもしきれない重要な地盤、信頼です。

しかしWindowsは、その役割を満足にまっとうする能力を持っていません。この点において、アップルは絶対優位な立場を確立していると言えるでしょう。
iPadOSは安心して、母なるmacOSのいいとこ取りをしていけます。

タブレットのこれまでとこれから


先の誘導デザインの話もそうですが、Surfaceタブレットの将来も、決して明るいわけではありません。
3大タブレットの比較記事「Three Way Shootout: iPad Pro 11, Galaxy Tab S4 and Surface Go」には次のように述べられています。

『Surfaceラインのタブレットモードにおけるアプリの欠如は、実に痛々しいほどネックとなっている。マイクロソフトはOSセットアップを、デスクトップ・タブレットモード双方で機能するほうへ完璧に持っていった。だが、Windows10向け「タブレット最適化アプリ」の欠如は、Windows Phoneを殺すこととなったアプリの欠如と同じくらい悲惨である』


彼らが過去の失態を清算する一番の道は、
Surface(Windows)を、その一台で、MacBook(macOS)とiPad(iPadOS)の両者を《あらゆる側面で》《完璧に》凌駕する完成度に仕立てあげること、だと思います。
そして、生産系モバイルコンピューティングの覇者になることです。次の10年で。

ただし、アップル製品群の背後には、プログラミング言語「Swift」の存在があることを見落としてはいけません。
爆速で進化しつづけている、モダンな時のプログラミング言語であり、これがデベロッパーたちを魅了し、デベロッパーコミュニティを強固なものにさせているからです。
僕自身、Swiftの利用者・学習者であることが、テクノロジーの最前線にいるような気持ちにさせられています。

一つのアプリデータでMac、iPad、iPhone向けに配信できるようにする「Marzipan」プロジェクトも今年から始まり、これも開発者たちをさらに魅了していくのではないかと思います。


要するに、タブレットとしてのSurfaceが置かれている状況は、想像以上に厳しいということです。
コメントにもあったように、彼らが解決すべき問題は山積みです。

ここで話をまとめましょう。
Windows10と比べ、まずmacOSは根から枝葉まで"格"が違います。
次に、最初のコメント欄の議論で注目すべきは「Windows10は、中級OSでしかないiPadOSと比較され始めている」ということです。
SurfaceとWindows10は、ハード的にもOS的にも強者の挟み撃ちにあっています。
しかも、スマートフォンという身寄りもいない…。

これまで長々と説明してきたのは、このざっくりとした立ち位置を示すためです。


そんなマイクロソフトは2019年夏現在、MacBookを名指しで煽るハード比較動画をのんきに作っています。

サムスンじゃあるまいし…。
あるツッコミコメントが的を得ていて面白かったので載せておきます。

『2019年…まだこの手のビデオをやっている…成長しろ、そしてラップトップ比べる前にWindows10を直せ!!』
(2019…still doing those videos… Grow up and fix windows 10 before comparing laptops!!)


カンパニーを突付くだけなら簡単なことですが、僕もアプリ開発者として、個人開発から2年間も距離を置いてしまったことを悔いつづけているところです。それを清算するために日々奮闘しております。

iPadがどうしようもないほど落ちぶれたときは、Surfaceへ引っ越せばいいと考えていましたが、どうやら心配する必要はなさそうです。
こうしてSurfaceタブレットは、またひとりデベロッパーを逃すこととなりました。


『現在の技術レベルでは、ハードウェア開発より、ソフトウェア開発のほうが、はるかに困難で手間がかかる。
パーソナル・コンピュータは、ゆくゆくは、規格品のコンポーネントを組み合わせて製造するようになるだろうが、ユーザーのアイディアに命を吹き込むソフトウェアのほうは、それがパーソナルでダイナミックなメディアという目標を達成するためのものなら、長くつらい洗練の作業を要求されることになる』

アラン・ケイ(1977年)



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