最近VAIO Phoneが発表されて話題になっていますね。
VAIO Phoneがついに登場! – ユーザーニーズの“ど真ん中”を狙う (1) VAIOはアップルに対抗できるブランド | マイナビニュース
この件でちょっと突っ込もうかと思って書いてみました。
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どんな”〜Phone”でも所詮は「箱」
VAIO Phoneの発表はあちこちで議論されています。スペックがどうとかデザインがパナソニックのアレに似ているとか。
VAIO本人曰く、空いているど真ん中を狙ったのがVAIO Phoneのコンセプトだそうです。
それぞれの言いたいことはわかるんですが、僕が思ったのは「どれも箱のことばっかじゃねえかw」ということです。
ここでいう「箱」というのはハードウェア、電話機やコンピュータなどの物質的なものを指します。
僕が期待したかったのは、安い電話機でもなければハイスペックの電話機でもなく
「VAIO OS」なる箱の中身の方。要するに、電話機やコンピュータの根幹を成す「基本ソフト」のことです。
「箱」の役割
じゃあ「箱」の何がいけないのか、と思われそうですが、箱を作るのがいけないのではなく、箱ばかり作っているからどうかと思うのです。
Apple、Google、Amazon、Microsoftなどの誰もが知る世界的なテック系大企業は、どれもベースとなる巨大なソフトウェア資産を築いています。
例えばAppleであれば、iTunesを中心にアプリ、映画、音楽、教育系のコンテンツを取り揃え、コンピュータ向けソフトのOS X、その派生OSでありモバイルOSであるiOSがあり、iTunesとの連携はもちろん、iCloudというクラウドサービスを介してOS X・iOS間のシームレスなやり取りを実現しています。エコシステムってやつですね。
で、MacやiPhone、iPadというのは、極端に言うとこれらエコシステムの中のコンテンツをユーザーが直接扱えるようにするための「箱」でしかないんです。
こちらの記事で見つけたんですが、あのスティーブ・ジョブズもこう言っています。
「本当はiPodはソフトなんだ。あの本体に収まったソフトと、パソコン用のソフトと、音楽購入用のソフトの組み合わせだ。確かに美しい箱に収まっているが実体はソフトなんだ」
僕らが毎日のように触っているスマホやパソコンというのは、ざっくりと言ってしまうと、形のないソフトウェアの世界と形のある現実の世界を結ぶ「箱」なんです。
僕は「箱」を使って書いた記事をソフトウェアの世界へ送り、読者さんは「箱」を通してこの雑多な文章をソフトウェアの世界から目の前へ引っ張ってこれるわけです。
逆に言えばその2つの世界を結ぶのが「箱」の本来の役割ということになり、それ以上でもそれ以下でもないと思います。
日本メーカーの名前がいくつ出てくるか
日本メーカーはソフトウェアに弱いなあとは以前から感じていたんですが、これは少し意識をすれば誰でも実感することができます。
その意識を向ける質問が「日常で使うソフト・サービスに日本メーカー製のものがいくつあるか」。
検索エンジンの主流はGoogleで「ググる」という言葉が生まれるほどですし、ウェブの買い物と言えばAmazon、曲の管理ツールと言えばiTunes、オフィスソフトと言えばMicrosoft Office、パソコン用OSであればWindows、ケータイOSは今は亡きNokiaのSymbian、画像編集ソフトならAdobeのPhotoshop、スマホOSのほとんどはGoogle製かApple製、FacebookやTwitterも米国発。
メッセージアプリのLINEは立派なインフラ作っていってますよね。ただスマホの普及とともに成長したものなので、上記のソフトウェアサービスと比べるとかなり最近な方ですし、「箱」を作っている老舗メーカーのサービスではないというのは気になります。
僕の知識が乏しいだけなのか、誰もが使っているような歴史のあるソフトウェアサービスに日本メーカーの名前が出てこないんです。
スマホやパソコンを作るメーカーがわんさかある中で、ソフトウェアサービスの世界に一歩入るとそれらのメーカーが誰もいなくなる、というこの極端な状況はなんなんだという感じは否めません。
脇役であってはならない変幻自在の道具
今の日本メーカー(と韓国メーカー)の懸命な箱作り競争を見ていると、昔のハードウェア主体の視点に縛られたままに見えてしまいます。
一斉を風靡した初代ウォークマンやラジカセのように扉をガチャっと開いてガチャっとメディアをセットし、厚みのあるボタンをガチャっと押すとガシャガシャギーギー音を立てながら音楽を再生するような「箱そのものがコンテンツを提供する」時代はとっくの昔に終わっています。
日本メーカーはどうもこの時代の思考のままモノづくりをしているようで、新生VAIOも例外ではないように思います。
iPadなんてディスプレイの付いた一枚板ですからね。たかだか「一枚の板」がいろんな分野・業界の頼もしい道具になれるのは、まさに変幻自在なソフトウェアあってのものだと思います。
VAIOもVAIO製品に搭載する「VAIO OS」を開発し、10年くらいの長期スパンでAppleやXiaomiを潰すくらいの発表をしてくれればスゴく好感が持てたんですが、現実は「箱作りの隙き間狙い」で終わってしまいました。
エコシステムを作らないとマズい
Appleのエコシステムについては先に書きましたが、他の企業のエコシステムについても少し。
GoogleはGmailなどのウェブサービスとAndroidやChrome OSを上手に連携させ、電話やパソコンだけでなく、時計や自動車、ロボットにまでどんどん手を出し、末端の「箱」は端末メーカーに任せています。Amazonは商品販売サイトを軸にKindleを展開してAppleやGoogleの製品にアプリを提供して寄生し、fire OSを作ったりドローンも活用するなどして独自のエコシステムを築き上げています。
MicrosoftもWindows10を発表してソフトウェアにテコ入れしています。
この様子はまさに「エコシステム同士の戦い」ですよね。
世界では人類を前進させるかのようなスケールの大きい戦いが繰り広げられている中、日本を覗いてみるとスペックがどうだの価格がどうだのと「箱」にしか着目しておりません。笑
冒頭で載せたリンクの記事には「VAIOはAppleに対抗できるブランド」と高らかに言っていますが、Appleからしてみれば「その他の端末メーカー」の相手をしている暇はないんじゃないかと思いますね(笑)
エコシステムを作っている企業と、箱だけを作っている企業では勝負の土台が全く違うのではないでしょうか。これはスマホシェア世界第2位のサムスンも同様だと思います。
このエコシステム構築に最も近い日本メーカーと言えばやはりソニーになると思うんですが、平井社長のインタビューを読んだりする限り「ソフトウェア」にテコ入れしていく気配がなかなか感じられないどころか過去の財産をどんどん手放していっているので、これからもしぼんでいくのかなぁなんて思ったりします。
ソニー創業者である井深大さんは生前こんな言葉を残しています。
『モノと心が表裏一体であるという自然の姿を考慮に入れることが近代科学のパラダイムを打ち破る一番のキーだと思う。こういったパラダイムシフト、つまり人間の心を満足させることを考えていかないと、21世紀には通用しなくなることを覚えておいていただきたい。』
この「心」とは僕はソフトウェアのことを指しているのではないかと思っています。この「モノと心が表裏一体」の姿を体現できているわかりやすい例は、MacやiPhoneなどのApple製品なんじゃないかと見ています。
この言葉を残した人が作った企業の製品が、逆にそれを体現できていないというのはなんとも皮肉ですよね。
で、今回のVAIO Phone発表について突っ込みたいことをまとめますと
「箱だけを作るメーカーがまた一つ生まれただけだよね」
ってことです。
ではでは。